イーサリアムの共同創設者であり、カルダノ・ブロックチェーンの創始者であるチャールズ・ホスキンソン氏が9月に日本を訪れました。
「日本におけるブロックチェーンの有望な活用事例」「ステーブルコインの展望」「アメリカ合衆国の大統領選挙」「米国で購入した牧場での生活」など、ホスキンソン氏が約45分にわたって語った内容を一部抜粋してご紹介します。
8人の「イーサリアム・マフィア」
「──ネット上にはチャールズの履歴が掲載されているが、再度チャールズ自身に関して情報をお聞かせください。」
「私は1987年にハワイ・マウイ島で生まれました。インターネットには誤った情報がたくさん掲載されていますね。」
イーサリアムの創設者は8名おり、そのうち最も有名なのはヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)です。ヴィタリックは『ビットコイン・マガジン(Bitcoin Magazine)』の共同創設者で、親友のミハイ・アリシー(Mihai Alisie)もイーサリアムの創設メンバーとして迎えられました。
「ヴィタリックは若く、当時19歳だった。イーサリアムの前に取り組んでいた「カラーコイン(Colored Coin)」というプロジェクトに、共同で関わっていたアミール(Amir Chetrit)が加わった。」
そして、カナダのトロントでビットコインの集会グループを運営していたアンソニー・ディ・イオリオが加わることになりました。当時私はビットコイン・ファウンデーションの教育担当をしていたので、アンソニーとはよく知り合いでした。
アンソニーはまず僕とジョー・ルービンをチームに迎え、その後にはギャビン・ウッドとジェフが加わり、こうしてイーサリアム創設の中枢チームが完成した。
「──8人の創設者が共同で進めるということは、困難な局面もあったことでしょうね。」

「プロジェクトを共同で立ち上げる8人の創設者は、簡単なことではありません。実際には、ほぼ不可能だとさえ言えるでしょう。イーサリアムも多くのプロジェクトと同様に、初期段階でほとんどの共同創設者が離れ、それぞれが独自のプロジェクトに取り組んでいきました。」
ジョー・ルービンはイーサリアムを離れ、コンセンシス(暗号通貨ウォレット「メタマスク」の親会社)を設立しました。アンソニーはディセントラル(ブロックチェーン開発企業)を創設しました。私はカルダノ(ブロックチェーンプラットフォーム)に取り組むため、インプット・アウトプット(IOHK=カルダノの開発会社)を設立しました。
「結局、残ったのはヴィタリックだった。」
「初期の段階では、(イーサリアム)プロジェクトを進める際に、創設者たちの間で哲学やビジネスへの考え方についての違いが生じることもありました。過去10年間は様々な困難があったものの、イーサリアムは大きな成功を収めたオープンソースのプロジェクトとなりました。」
「ペイパル・マフィアがそれぞれのビジネスをアメリカで築いてきたように、私たち「イーサリアム・マフィア」もそれぞれのプロジェクトを進めてきたと考えています。」
「ペイパル・マフィア」とは、ピーター・ティール氏やイーロン・マスク氏、YouTubeの共同設立者であるスティーブ・チェン氏、そしてリンクトインを立ち上げたリード・ギャレット・ホフマン氏など、ペイパル(PayPal)で活躍したメンバーたちのことです。
「ブロックチェーンと相性が抜群な日本の2大産業」

「──今回チャールズと日本でお会いさせていただいているので、「日本とブロックチェーン」についてお伺いしたいです。過去10年間、ブロックチェーンは世界的な注目を集めてきましたが、この技術が一般的に普及しているとは言い難いと考えています。日本において、将来的には5年や10年後に、どのような分野でブロックチェーンが活用されるようになるか、ご予想されますか?」
暗号の世界では、いくつかの分野で使用例が考えられると思います。まず、日本の「スーパーパワー」とされる製造業を中心とする重厚長大な産業分野が挙げられます。そしてもうひとつは、非金融の個人向けサービス分野です。
「日本経済の基盤を支えるトヨタやホンダ、三菱グループなどの大手企業によって形成される重要な産業は、多くの下請け企業や関連会社を巻き込みながら発展しています。今後、この産業界はますます大きな社会的責務を担うことが予想されます。」
「これは、国内外で二酸化炭素排出量を削減し、持続可能な社会基盤を構築する(グローバルサステナビリティ)目的を達成するということです。この目標を達成するために、ブロックチェーンなどの技術が活用される可能性が高いでしょう。」
たとえこのケースが日本の産業界で生まれた場合でも、メディアが積極的に報道する対象とはなりにくく、多くの消費者が関心を持たない可能性が高いかもしれません。
例えば、欧州連合(EU)はすでに「バッテリーパスポート」という制度を導入する方針を確定し、2027年以降、域内で販売される電気自動車(EV)にはこのバッテリーパスポートが必要となる見込みです。
バッテリーパスポートとは、電気自動車(EV)などに使用される蓄電池の素材調達、製造、販売、リサイクルに関する情報をデジタルデータとして記録し、表示できるようにする仕組みです。
おそらく、この手法にはブロックチェーンが採用されるであろう。水素を燃料として利用する燃料電池車を生産するトヨタも同様の社会的責任を負うことになるだろう。

「日本における2番目の消費者向けサービスとは、日本独自の強みを指します。日本には膨大な数の驚異的な知的財産(IP)が存在しています。ソニー、任天堂、スクウェア・エニックスなどの日本企業が保有するIPは、数千億ドルの価値を持っています。」
「暗号分野における多くの日本企業が、IPを新たな収益化手法にする方法を模索している中、日本は将来、GameFiやNFTの分野で世界をリードする可能性がある。ソニーのような代表企業がすでにアクションを起こしているが、他の企業も日本の強みを活かしつつ新しい市場を開拓していくだろう。」
「IPは、日本が長年に渡り築き上げてきた貴重な財産であり、重要な資源である。」
『スーパーマリオブラザーズ』に登場するキャラクターであるマリオは一貫してその魅力を持ち続けていますが、将来的には新しい手法によってその価値が提供されることになるでしょう。その際、消費者たちはブロックチェーン技術が裏で活用されていることに気付くことなく、新しいマリオの世界を楽しむことになるでしょう。
「前述の2分野に加えて、日本についてもう1つ触れたいことがあります。日本はこれまで人型ロボットやAIの開発に力を入れてきましたが、現実には米国が大きなリードを築いています。今後、日本がどのようにして米国との差を縮めていくかについて議論されていると考えられます。」
「ブロックチェーン技術を活用することで効果的な手段が見いだせるのではないかと考えています。日本の多くの企業がコンソーシアムを組んでデータを共有することで、トヨタやソニーなどの大手企業が協力すれば、さらに高度な言語モデルを開発できる可能性があるのではないでしょうか。」
「マイクロソフトなどはAIの開発を単独で推進する一方で、ハードウェア開発に優れた日本企業は、コンソーシアムを組むことで独自のアプローチを検討できるかもしれないとされている。」
※後編に続く
「取材・記事執筆:佐藤茂 写真撮影:今村拓馬」