東証グロース上場企業で、低価格と迅速なサービスで知られるネイルサロン「FASTNAIL」を展開するコンヴァノは、国内企業の中でも注目を集めるビットコイン保有戦略を展開しています。同社は7月22日に約4億円で初めて23BTCを購入し、その後急速に保有量を増やし、9月15日時点で約519BTCに到達し、国内ランキングで5位に浮上しました。
9月8日に、総額200億円の追加購入が決定されました。この追加購入は、企業が掲げる「21,000ビットコイン財務補完計画」の一部であり、実現すれば約1210BTCを新たに取得します。この購入により、国内においてBTCを保有する企業としては、メタプラネットに次いで2位にランクインすることが見込まれています。また、マイニング事業への参入や機関投資家向けのインカム戦略を取り入れた新規事業も開始されており、業界から注目を集めています。
「同社は2007年に設立され、美容やエステを中心に事業を展開してきました。なぜ突然、本業とは関係のないビットコイン保有を積極的に推進しているのか、その理由は何でしょうか。」
CoinDesk JAPANは8月に、同社の取締役で「BTC保有戦略室」室長である東大陽氏に独占取材を敢行。東氏の話から浮かび上がったのは、円安リスクに対する懸念からスタートしたBTC保有戦略が、長期的な企業価値の向上を目指す「攻めの財務戦略」に変貌した様子だった。さらに、東氏が述べた「株式の希薄化は避ける」という言葉の真意に迫った。
円安と仕入れコスト上昇が転機に
「同社は2027年3月末までにビットコインの発行上限の0.1%に相当する2万1000BTCを保有する計画を発表した。計画は第一段階(Phase I)から第三段階(Phase Ⅲ)に分かれており、現在進行中の第一段階では、今年12月末までに2000BTC取得を目指す。」
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東氏によれば、昨年の夏から秋にかけて、同社がビットコインを保有することを検討し始めました。この決定の背景には円安が深刻化していたという事情があります。同社の子会社であるヘルスケア事業では、海外からの医薬品の仕入れコストが上昇しており、ネイルサロン事業でも一部の資材(ジェルなど)の輸入価格が上昇したため、サービス料金の見直しを迫られる状況になっていると報じられています。
「その時、ネイルサロンの運営を統括していた東氏は、執行役員として、「保有資産を円で維持し続けるリスク」について経営陣に言及しました。従来の逃避先として金やドルなどが存在する中、提案されたのはビットコインでした。」

「東氏は、一般的に不安定とされている状況の中で、ビットコインが現時点で最も信頼性の高い投資対象だと述べています。今年の6月には、東氏が取締役に就任し、同時に「BTC保有戦略室」が設立されました。そして、7月に向けての初めてのビットコイン購入の準備が進行中です。」
結果として、この選択は市場で高い評価を受ける結果となりました。同社の時価総額は2022年9月16日時点で約1187億円に達しました。これは昨年の4月時点の約80億円と比べて、およそ14倍に増加したことを意味します。さらに、同社の株価は年初から10倍以上の上昇を記録しています。

マイニング、インカム事業も開始
「BTCを取得する計画に加えて、その企業は暗号資産(仮想通貨)領域への参加を強化しています。8月には、マイニング事業への参入や機関投資家水準のインカム運用の導入などを相次いで発表しました。」

5日、ビットコインを取り扱う新ビジネス「ビットコイン・インカム事業」の立ち上げを発表しました。この事業では、オプション取引を利用して、あらかじめ設定した価格でビットコインを買い取る契約を結ぶことで、手数料(プレミアム)収入を得る仕組みが採用されています。
「リスクを最小限に抑えつつ、100%現金担保でレバレッジを利用せず、利益を追求する取引を行う。2026年3月期までに300億円を投資し、年間30億円の手数料収入から10%のリターンを目指す。現時点では収益が開示義務を満たすほど上がっていないが、将来的には「財務補完計画」の中核として成長させる考えだと東氏は述べた。」
「次の日に、電力コストが安いアメリカの地域でのマイニングビジネスへの参入を発表しました。将来的にビットコインの市場価格がマイニングコストを上回る可能性を考慮し、将来の市場変化に柔軟に対応できるよう、今のうちから準備を整える意図があります。最初は小規模なトライアルを行い、事業環境に応じて柔軟に拡大または縮小する方針も明らかにしました。」
暗号通貨会社が、インフレへの備えとして採用したBitcoin(BTC)による資産保全戦略は、保有に留まらず、マイニングやインカム事業にも展開されており、こうした積極的なアプローチが業界の注目を集めている。
避けるべき株式の希薄化
東氏はBTC取得のための増資に関して、「1株当たりの純資産と純利益が減少しないように慎重に進めるべきだ」と強調しました。同社は、既存事業の成長と純利益の増加が重要であり、利益の拡大に見合った資金調達を段階的に行う考えで、株主価値を損なわない範囲で新株発行を検討する方針を明らかにしました。

東氏によると、「短期的な利益追求よりも、我々のビジョンに共感する投資家に焦点を当てて引受を行う」と述べた。財務補完計画の発表後、国内外からの引き受け希望が多数寄せられているが、経営理念に賛同する企業やファンドに限定して選定し、理念に合致しない相手は断っていると述べた。
「多くの国内企業が新株予約権を利用して株式希薄化を進める中、当該企業は大胆な長期目標を設定しつつも、株主価値を守る慎重な姿勢が同社の戦略を特筆させています。」
意識するのは国内のETF承認
東氏は、将来に向けて「2万1000BTCを入手すれば、世界のビットコイン保有企業の上位100社にランクインできる」と述べました。ビットコインが10倍や20倍になると価値が高まり、BTCを保有する企業が「世界のトップ企業」に匹敵する時価総額に達する可能性もあると彼は考えています。
東氏は、「機会を逃すわけにはいかない」と述べています。最初はインフレ対策として始めたビットコインの保有が、計画の発表を契機に、中長期的な財務戦略の中心に据えられています。
同社が重要視している要素の一つは、国内でのビットコインETF(上場投資信託)の承認時期です。現在、ETFが承認されていない状況では、ビットコインの現物取引の売却益には最大55%の課税がかかりますが、一方で株式の場合は分離課税が適用されて約20%にとどまるため、ビットコインを保有する企業株が「現物取引の代替手段」として求められています。しかし、ETFが承認されると投資家は低税率で直接ビットコインに投資できるため、トレジャリー企業株を購入する投資家の動きが鈍化する可能性があります。さらに、暗号資産の売却益に分離課税を適用することを検討しており、制度変更のタイミングには注目が集まっています。
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計画の最終段階を2027年3月までに設定している理由として、東氏はETFの承認が見込まれていることを挙げ、「ETFの承認前に保有をどれだけ進めることができるかが勝負だ」と述べました。
「ネイルサロンを経営する一般的なサービス業から、国内有数のビットコインを保有する企業へと変貌を遂げつつあるコンヴァノ。異色の組み合わせに思えるかもしれないが、株主の価値を損なわず段階的な拡大を目指す慎重さと、2万1000BTCという大胆な目標を掲げる姿勢は見事なバランスを保っている。国内外の投資家の注目を集める中、同社の財務戦略が重要視されている。」
「執筆者:橋本祐樹 写真提供:CoinDesk JAPAN編集部 キャプション画像:コンウァノ取締役で「BTC保有戦略室」室長を務める東大陽氏」