トランプ氏の大統領選勝利により、ビットコイン価格が急上昇し、10万ドルを超えるなど、暗号資産市場は大きな活況を呈しています。しかし、日本では金融庁による規制の見直しやDMMビットコインの廃業、業界再編といった動きがあり、国内では「2社で充分」との意見も出ています。2025年の暗号資産業界の展望について、今年で創業10周年を迎えたビットバンクの代表取締役社長兼CEOであり、JVCEA(日本暗号資産等取引業協会)理事、JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)会長である廣末紀之氏に聞いてみました。
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暗号資産BtoBビジネスへの準備
“最近、テレビで頻繁に放映されているのは山本由伸投手が出演しているドジャースのCMです。そのCMがどのような反響を呼んでいるかを知りたいですね。”
「廣末氏によると、今年の春に山本選手と契約を結び、シーズン前にCM撮影を行ったとのことです。その後、夏には相場も低迷していたため、適切なタイミングを見計らっていましたが、山本選手が怪我から復帰し、ドジャースも勝ち上がり、ワールドシリーズ進出が決定しました。非常に幸運なタイミングだったそうです。山本選手にとっては、初めての全国放送CM出演となり、アリゾナでの撮影も非常に協力的に進んだそうです。」
「トランプ氏が次期大統領に選出され、それにより暗号通貨市場が大いに活気づいていますね。今後の展望は不透明ですが、この状況が続く期間についてどのように考えていますか?」
廣末氏によれば、今年の暗号通貨市場の要因としては、ビットコインETFと半減期、米国の金融緩和、そして大統領選挙の4つが挙げられるという。従来からの経験から言えば、ビットコインの相場は半減期のおおよそ半年後に急上昇する傾向がある。今年は、米国大統領選挙で共和党が暗号資産を支持する姿勢を示したことが追加の刺激となった。これらの予測に基づき、信用取引の導入やCMなどの準備を行ってきたと述べた。
「株式市場の展望については、個人的な見解ですが、通常では半年ほど好調を維持し、来年の上半期まで上下の動きはあるものの好調だと考えています。現時点では、夏のシーズンが続き、その後に秋と冬が訪れるでしょう。秋に転換するきっかけとなる可能性があるのは、トランプ大統領の政策によってアメリカでインフレが進行し、金利が引き上げられることで市場から資金が引き揚げられた際、変化が起こるかもしれません。現時点では、アメリカの経済指標は順調であり、そうしたムードにはならないと見ていますが、過去にはアメリカがボルカーFRB議長の時代にインフレに直面した経緯があります。来年の半ば以降には警戒が必要かもしれません。」
「──次に訪れる秋から冬にかけて、考えていることは何ですか。」
廣末氏は、重要なことは、秋や冬に次の夏のための準備を怠らずに行うことだと述べています。ますます取引所を強化していく必要があります。現在不足している点がまだあります。ユーザーからの要望には、積立やステーキングの銘柄数、デリバティブなどが含まれています。今年、オリコンの「暗号資産取引所 現物取引」の顧客満足度ランキングでNo.1に選ばれたこともあり、サービス品質は一定の支持を受けていますが、国内外を含めて最高のサービスを提供していきたいとの考えです。
現在、重要なトピックの1つとして取り上げられているのは、金融庁が「暗号資産の再定義」について検討している点です。具体的には、規制の枠組みが資金決済法から金商法(金融商品取引法)に転換する可能性があります。この背景には、暗号資産に関する個人の課税上の問題、ビットコインETFの登場、そしてRWA(現実資産)を含む金融商品化の進展があります。
「このような動向を踏まえ、2025年以降に急速に拡大すると見込まれるのが、暗号資産の企業間取引(BtoB)ビジネスです。金融機関を含む企業間取引の枠組みが整備され、関心が高まると予想されます。私たちは、こうした動向に備えるために、JADAT(日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社)を設立しています。未来を見据え、次なる展開に向けて準備を進めています。」
業界再編、IEOの見直し
「暗号資産の法規制が金融商品取引法に変更された場合、暗号資産取引所にとっては負担が一層増大することになるでしょう。」
「広末氏:その通りですね。不公正取引や内部者取引を防ぐための対策を強化する必要があります。しかしこれは、私たちにとってはこれまで力を入れてきた分野です。先ほど言及したように、今後、機関投資家が市場に参入するとなると、業界全体でセキュリティやガバナンスの水準を更に高めていく必要があります。」
現在、JVCEAのセキュリティ委員長として、暗号資産に特化した情報共有・分析機関である「JPCrypto-ISAC」の設立を推進しています。業界全体のセキュリティ強化を図ると同時に、個々の企業も更なる統制を固めるべきだと考えています。
「──状況によっては、業界再編も考えられるかもしれませんね。」
「暗号資産業界における挑戦に直面する今、複数の課題に対応し、かつ高度なスキルが要求される状況となっています。システム、セキュリティ、マネーロンダリング、金融法に基づく不正取引やインサイダー取引といった問題に対処することが不可欠です。業界の再編は、金融分野では一般的な現象であり、常に起こり得る可能性があります。」
「日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)では議論されているが、取引所が金商法の枠組みに移行することで、対応が比較的明確になりつつある一方、ウォレットやNFTを提供している企業には大きな影響が及ぶ可能性があるため、適切な落としどころを見つける必要がある。」
IEOについては、私は見直しを必要と考えています。実際、ビットバンクはIEOを一切行っていません。現時点では情報開示が不十分であり、ユーザーに提供することができないという考えです。もちろん、各社は定められたルールに基づいて取り組んでいますが、投資家保護の観点からさらなるルール整備が必要だと考えています。このような取り組みを通じて、金商法の枠組みの中で整理し、適切な形に整備していく作業をJCBAで進めています。
日本版ビットコインETF

「──日本仕様のビットコインETFに向けた準備も進捗しているのか。」
「日本においても将来、ビットコインETFが実現する可能性が高いと考えますが、ビットコイン資産の管理や保管、ETF運用会社向けの取引を誰が担うかという問題があります。現時点では、日本には顧客の暗号通貨を預かることができる業者は暗号通貨交換業だけです。そうした中でも、過去にトラブルを起こさず、しっかりとした統制が取れている業者は数少ないです。私たちは、この点に自信を持っており、さらに、JADATは三井住友トラスト・グループ(SMTG)と提携しています。」
将来、さまざまな資産がデジタル化され、ブロックチェーン上で管理されるようになると予測されており、そのような「オンチェーン・デジタルアセット」の取り扱いが求められるようになるでしょう。JADATはこの分野で重要な役割を果たし、ETFやトークン化されたRWA(実質資産)に対応していく意向です。
「暗号通貨の取引業界では、資産の保管は可能ですが、機関投資家向けのビジネスは、これまでの個人向けビジネスとは異なるデータのやり取りやレポート作成などの要件があります。ビジネスを伝統的な金融の運営手順に合わせる必要があります。当社もSMTG社から学びながら、プロセスを整備しています。」
「──BtoBビジネスの観点から見ると、2023年末までに業界間の決済効率を向上させるための「業界横断型ステーブルコイン」に関する話があり、貴社も参加する可能性があると伝えられました。現在の進捗状況はどうなっていますか。」
「ステーブルコインの専門家である廣末氏によると、特に日本円にペッグされたステーブルコインは、どのようにして収益を上げるかが大きな課題であるとの見解を示しています。そのようなコインのユースケースをどこに見出すかは容易ではなく、難しいと語っています。一方で、ドル建てのステーブルコインは、暗号資産取引において国外との価格差を利用することが容易になるため、需要があると考えられます。ただし、日本においては国外で発行されたステーブルコインは厳格な規制が課されているため、導入が難しい状況にあると述べています。」
「──その時点では、海外の流動性プロバイダー(LP)との資金決済に活用する可能性があるという話でした。」
廣末氏は述べています。「ウォレットプロバイダーである私たちは、流動性リスクを自己負担しています。取引所の付加価値は、流動性を確保することにあると考えており、常に努力しています。一方で、販売所のみを運営している企業にとっては、LPとのやり取り時にステーブルコインが有用な場合があるかもしれません。」
重点領域はライトニングとAI

「──11月の初めに、暗号通貨に特化した投資会社を立ち上げました。狙いは何かと言えば。」
廣末氏は、かつてビットバンクで投資事業に携わっていた。それを再編し、CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)として一本化した。CVCは、キャピタルゲインを目指す一方で、新技術の研究や事業協力も重要視している。特にライトニングネットワークやAIを重要な分野と位置付け、CVCへの参加を通じて事業を拡大していく考えだ。
「ライトニングネットワークは、入金や出金にも導入される予定です。これにより、ユーザーは入金や出金にかかるコストがなくなり、処理速度も向上します。ビットコインは本来、支払い手段として生まれたものですが、そのデフレーション構造から支払い手段としての機能を果たすことはできないと考えられています。」
しかし、支払いに利用できないというわけではなく、ライトニングネットワークを利用すれば可能です。そのため、この分野における研究開発に手を抜くことなく取り組み、実際の取引でユーザーに利益をもたらしていく。
「──米国では、主要取引所であるコインベース(Coinbase)がイーサリアムのレイヤー2に取り組んでおり、注目を集めていますが、それについてどう考えますか。」
「現時点では、廣末氏は企業間の連携について議論していないと述べています。業務上のシナジーが現時点では見込めず、今後の上場計画に向けて会計や監査の観点で問題が生じる可能性があることに関しては慎重な姿勢を示しています。」
「一方、私自身はAIに大きな興味を持っています。今後10年間で最も重要な変化は、AIが中心となる社会への転換であり、働き方を含む社会全体が劇的に変貌する可能性があると考えています。」
社内では常に、暗号通貨は機械の利用に適しているという考えが共有されています。現在のキャッシュレス決済の便利さを考えると、無理に暗号通貨を導入するのは得策ではないという意見もあります。しかしながら、AIの進化により「機械経済」が台頭する未来には、暗号通貨がAIによる決済に最適な手段として活用されると予想されています。将来10年間で「自動機械経済圏」が形成されると見込まれており、その時に今まで蓄積した技術を活かして新たなビジネス領域を創出していきたいと考えています。
東証に正面から
「『自動化された経済圏』が出現すると、人間の役割は何になるのか。」
廣末氏は言います。「仕事の概念は変わりつつあるでしょう。歴史を振り返ると、経済の効率化や機械化、自動化により、人間の労働は徐々に減少しています。AI社会が訪れ、週休4日や5日が一般的になるかもしれませんが、その時、人々は何をするのでしょうか。私自身もまだその先を想像することができていませんが、社会が大きく変化することは確実です」。
“──できるだけ抽象化された議論になりましたが、2025年には、先程触れた上場など、どのような計画を立てているのでしょうか。”
廣末氏は言います。「最近、コインチェックが米国のナスダックにSPAC上場しました。これは素晴らしいことですが、暗号資産業界はこれまでいろいろな批判を受けて、時には冷ややかな視線を向けられることもある業界です。私たちは日本で活動しているので、東京証券取引所に直接上場し、社会的な認知度も高めたいと考えています。」
ビットバンクは2014年と2017年に起きた強気相場の際に、規模の面でうまく対応できなかったため、大手2社のコインチェックとビットフライヤーに出遅れてしまいました。しかし、当社はサービス品質には自信を持っており、今後もそれをさらに向上させていくことに注力していきたいと考えています。
「インタビュー記事:執筆者・増田隆幸、画像提供:ビットバンク」