「2025年3月に、米ドルに連動したステーブルコインである「USDC」がSBI VCトレードで取り扱いを開始し、日本の市場で本格的にデビューしました。その後、約半年が経過し、最近では、国内初の円建てステーブルコイン発行者であるJPYCが認可されたり、リップル社のステーブルコインである「RLUSD」の導入計画が発表されるなど、ステーブルコインに関する環境が大きく変化しています。」
サークル(Circle)社において、日本のカントリーマネージャーとして事業開発を担当する榊原健太氏に、USDCの日本国内における状況や手応え、今後の展望について取材しました。
立ち上がりは非常に順調
「3月末にSBI VCトレードでの取り扱いが開始されましたが、その初動をどのように評価されていますか?」
「榊原氏は、このプロジェクトのスタートを非常に順調と評価しています。日本のマーケットにおいて初のステーブルコインの上場は、弊社にとっても日本の市場にとっても歴史的な出来事だと考えています。」
SBI VCトレード以外でも、いくつかの取引所やパートナーから新たなユースケースに関する検討や協議の要請を受けています。具体的な数字は明かしませんが、立ち上がりの勢いから、日本市場におけるUSDCへの需要の高さを実感しています。
「日本のステーブルコインに関する厳格な規制の下で、実際にサービスが立ち上がり、それにより安心感が広がっています。これにより、具体的な検討が進めやすくなり、ポジティブな好循環が生まれていると感じています。」
“最近の状況や意外な発見などから、新たに特定されたユーザープロファイルや主要なユースケースに関する情報はありましたか。”
「榊原氏は、業種による分類よりもユースケースに基づいてユーザー像をカテゴライズする方が適切であると述べています。具体的には、まず最も一般的なケースとして、USDCが海外でも広く利用されている「国際送金」が挙げられます。さらに、注目すべき大きな動きとしては、「企業のトレジャリー(財務)管理」、つまりキャッシュ・マネジメントにおける活用があります。特に、グローバルに複数の拠点を持つ大規模企業からは、この分野への関心が非常に高いとのことです。」
「法定通貨を使用する場合、各国の銀行の営業時間や送金プロセスに縛られることになりますが、USDCを使用すると24時間365日、迅速かつスムーズに資金を移動できます。このスピードと効率性に価値を見出しているようです。」
「複数の資産がトークン化される中で、USDCを支払い手段として活用したいとの相談が増加しています。日本国内では、USDCの1日取引上限が100万円という課題がありますが、多くの企業は「何もしない」のではなく、「小規模ながらも始めてみよう」という姿勢を示しています。実証実験よりも規模を大きくし、実際に運用を試みることで得られた課題について、前向きな議論が進んでおり、我々と協力して解決していこうという考えが広がっています。」
「しかし、具体的な実施に踏み切るとは言っても、私たちの立場としては、まずは規制を優先して考えています。私たちは当局と建設的な議論を続けており、ユーザーの保護など、守るべき点は大切にしながら進めています。」
「共通している課題の根本には、「世界中でお金の流れをよりスムーズで連続的にしたい」という考え方があり、この問題の重要性を再確認している。」
予期せぬことは、予想を超えるさまざまな応用ケースの相談が寄せられることでした。パートナーからのアイデアや知見に、驚かされることが多く、率直に言って驚いています。
ジーニアス法で “あるべき姿” が明確に

「──USDCが世界規模でどのような状況にあるのかも知りたいです。アメリカではジーニアス法が制定され、大きな変化が見込まれています。」
榊原氏は、アメリカでジーニアス法が制定されたことが、ステーブルコイン市場にプラスの影響をもたらすと考えています。それは、「理想的なステーブルコインの条件」が明確に定義されたためです。
日本のステーブルコインの規制がアメリカよりも2年も早く確立されており、世界をリードしてきました。ジーニアス法の制定に際しても、日本の規制フレームワークが重要な基準として参考にされ、一つの「ベストプラクティス」として位置付けられたと聞いています。
「我々は、ジーニアス法によってUSDCが保持している高水準、具体的には透明性、信頼性、規制順守などが再度評価され、我々への理解や信頼が一層深まったと感じています。」
日本は、初めて世界でステーブルコインに関する規制を導入したことから、規制当局の先見の明という姿勢を高く評価すべきだと考えています。
「JPYCやRLUSDなど、市場が魅力的であることを示す証拠である」

「──JPYCが円建てステーブルコインの発行体として承認されたことがありました。日本におけるステーブルコインの環境に対してどのような見解をお持ちでしょうか。」
「榊原氏は、JPYCが認可されたことは、日本のステーブルコイン市場全体がさらに進展していることの証拠であり、非常にポジティブな進展だと考えています。」
「将来的には、円建てのステーブルコインが複数登場すると予想されますが、弊社はUSDCおよび円建てステーブルコインとの関係において競合関係ではなく、むしろ相互補完的な関係にあると考えています。弊社は積極的にパートナーシップを築いていく姿勢ですので、どうぞご協力をお願いしたいと思っております。」
「もちろん、そのためには、私たちが重要視する高い基準である透明性、コンプライアンス、安全性などを満たしていただく必要がありますが、同じ目標を持つ発行体の皆さんと一緒に市場を開拓していきたいと思います。」
「我々はステーブルコインを発行するだけでなく、インターネットペイメントプラットフォームの構築も目指しています。先日発表されたレイヤー1ブロックチェーン「Arc」と決済ネットワーク「Circle Payments Network」を通じて、金融機関や開発者がUSDCを活用した新しいサービスを容易に統合・創出できるグローバルな基盤を提供しています。」
「暗号通貨の世界において、ステーブルコインの普及を促進するプラットフォームや製品を提供し、共通のビジョンを持つ高水準なパートナーを募集する考えがあります。」
SBIは、米ドルにペッグされたステーブルコインであるリップル社の「RLUSD」の導入を発表しました。将来、さまざまな競合相手が登場する中で、USDCの主要な利点や差別化ポイントは何でしょうか。
「榊原氏は言っています:複数の企業がこの市場に参入してくる状況は、この分野が健全であり、大きなビジネスの機会が存在することを示しています。これまで「興味がある」という段階にあった企業が、本格的に「導入する」フェーズに移ってきたことを歓迎しています。」
「そのような状況下で、私たちの優位性は明らかです。重要なのはコインの種類や数量ではなく、その『質』です。」
「弊社の強みは、透明性とコンプライアンスにあります。信頼のUSDCを確保するため、日々および毎月、裏付け資産に関する報告書を公開することで透明性を維持してきました。2018年以来、すべての準備資産に関する詳細なレポートを継続的に公表し、2021年と2022年には米国証券取引委員会(SEC)への報告も行っています。」
さらに、Big Fourの一つである世界四大会計事務所が監査と第三者レポートを毎月提出しており、それによって準備資産の価値が常に流通しているUSDCの総額を上回っていることが開示されています。これらのレポートは、米国公認会計士協会(AICPA)のアテステーション基準に準拠して作成されており、最高水準の信頼性と透明性が提供されています。
「また、サークル社は上場企業であり、それが信頼性を示しています。ステーブルコイン発行体として米国で初めて上場した企業であり、上場企業としてより高い情報開示責任を負っています。これは、当局だけでなく一般の人々による監視の対象となっているため、ユーザーにとって大きな安心材料となっています。」
ともにユースケースを切り拓いていきたい
「──アマゾンがステーブルコインを採用する可能性もあると言われる中、ステーブルコインの種類が急速に増加すると見込む声もある。将来どのような展開が予測されるか。」
榊原氏は、現時点で参入事業者が増加しており、市場が魅力的なため今後ますます増えていくと予想しています。ただし、規定に適わない参入者は市場機能の中で淘汰されるでしょう。その結果、高い水準を目指すプレーヤーが残存することになると考えられます。
「我々の最大の強みは「質」への徹底したこだわりにあり、今後もこの方針は揺るぎません。」
「──最後に、今後の日本市場で期待することを教えていただけますか?」
「榊原氏は、日本独自の成功法則であるポイント経済圏が存在することを指摘しています。暗号資産取引はまだ発展途上段階ですが、日本人が持つ保守的な投資傾向に合わせた商品設計を行うことで、大きな可能性を引き出すことができると考えています。」
「新しいユースケースやユーザーに価値を提供するアイデアが生まれる過程で、新たなUSDCの利用方法も浮かび上がるかもしれません。私たちは、開発者がイノベーションを生み出せるプラットフォームを提供することを目指しています。」
このプラットフォーム上で、USDCを活用した革新的な価値創造に期待しており、我々は日本の方々と協力しつつ、よりオープンで多様な対話を重ねながら、新たなユースケースを共同で開拓していきたいと思っています。

「増田隆幸によるインタビュー。記事構成および文:瑞澤 圭。写真撮影:多田圭介」