米国の主要金融機関が展開する暗号資産の運用ビジネス

「国内の仮想通貨市場では、2024年に取引口座数が急増し、1000万口座を超えるなど、表面的な数字で見れば国民の約10人に1人がアクセス可能な資産となっています。政府や自民党がWeb3を国家戦略の一環と位置付けたことが契機となったと考えられます。それでは、なぜ日本の取引口座数が2024年に急増したのか、その理由について考えてみましょう。」
2022年1月、アメリカの金融業界で重要な出来事がありました。世界最大の資産運用会社であるブラックロックを含む11社が、ビットコイン現物ETF(上場投資信託)をアメリカで初めて上場させました。これにより、暗号資産に慣れていない一般の投資家たちでさえ、ビットコイン(BTC)に間接的に投資できるようになりました。現時点で、これらの11本のビットコインETFに累積された投資額は175億ドル(約2兆5400億円、1ドル145円換算)に達しています。
「その後半年の7月に、米国ではイーサリアム・ブロックチェーンのネイティブトークンである「イーサリアム(ETH)」に連動した複数のETFが登場しました。このイーサリアムETFを推進した企業には、世界の資産運用業界をリードしてきたブラックロックと米国フィデリティという名前が浮上していました。」
「アメリカでの動向が火をつけ、ビットコインETFが未だに未発売となっている日本において、実物のビットコインへの投資意欲が高まった。これまでの仮想通貨取引所に加えて、メルカリもビットコインの購入サービスを本格展開した。」
「10兆ドルの資産を管理し、金融業界をリードするブラックロックが、ついにビットコインを1つの資産クラスとして認識し、新たな投資信託を立ち上げる段階に至ったことは、一般の投資家にとっても無視できない重要なニュースである。」
米国のCoinbaseが事業基盤を拡大するためにビットコインETFの導入を検討中

「米国で取引が始まったビットコインETFにより事業を拡大している米国企業が存在します。その企業は、暗号資産取引サービスを提供し、ブロックチェーン関連の事業を展開しているCoinbase(コインベース)です。Coinbaseは2021年にナスダックに株式上場し、初の暗号資産取引所となりました。」
「当社の収益モデルを見れば、それは明らかです。」
2024年4月から6月の第2四半期に、コインベースは14.5億ドルの売上高を達成しました。これは日本円に換算すると約2100億円に相当します。同社の収益の約半数は取引サービス事業から生まれ、その収益は約7.81億ドルです。このうち85%は個人投資家向けの取引サービスから生み出されています。
「興味深いのは、「Custodial Fee Revenue(カストディ手数料収益)」に分類される収益で、第2四半期には3450万ドルの収益が発生しています。全体の収益が14.5億ドルであることを考えると、収益源とは言い難いかもしれませんが、前年同期比で2倍に増加していることが明らかとなっています。」
「ETFの発行者は、ビットコインやイーサリアムを購入する際に、専門の保管・管理企業に預託することで売買を行います。この保管・管理業務を担当するのが、例えばコインベースという企業です。コインベースは、ビットコインの保管・管理を行うだけでなく、米国で発行された9つのイーサリアムETFのうち8つの保管業務も引き受けていると報告されています(同社の報告書による)。」
日本国内でも流通が認可されたステーブルコインは重要な収益源となっています。
ちなみに、コインベースの収益のうちもう1つの柱は、日本でも発行が可能となった「ステーブルコイン」に関連する収益です。
「ステーブルコインとは、法定通貨にペッグされたデジタルトークンで、ブロックチェーン上で発行や取引が行われます。米ドルに連動したステーブルコインの分野では、米国のテザー社が発行する「USDT」が最大の発行量を持ち、次に大きいのは米サークル社が発行する「USDC」となっています。」
コインベースは去年、サークルへの資本参加を行い、ステーブルコイン事業の収益を増加させるための取り組みを強化してきました。同社が第2四半期に記録したステーブルコイン事業からの収益は2.4億ドルで、前年同期の1.5億ドルから大幅に増加しました。
「サークルが発行しているUSDCは、1USDC=1ドルの価値をキープするために準備金を保持しています。この準備金には、米国の短期国債や現金が含まれており、獲得した利息はサークルの主要な収入源となっています。金利が上昇する時期には、当然ながらこの利息収入も増加します。」
「サークルは現在、米国での株式公開を検討しており、今年1月に米国証券取引委員会に書類提出を行っている。」
暗号通貨ETFに関連した動きが始まった企業を見据えています。

日本に帰って、ビットコインETFやイーサリアムETFの「日本版」が発売される可能性がある場合、確実にコインベースのようなカストディ業務を提供する企業が必要になります。このため、暗号資産交換業者のビットバンクやビットフライヤーがその体制整備に取り組んでおり、SBIホールディングスもブロックチェーン上で取引されるあらゆるトークンを取り扱う方針を推進しています。
「ビットバンクという企業は、約3840億円の預かり資産残高を持ち、約160人の従業員を擁しており、2022年に三井住友トラスト・ホールディングスと提携し、デジタル資産信託事業を展開するための「日本デジタルアセットトラスト(JADAT)」の設立準備に着手した。」
「ビットバンクの株式の30.69%を所有する廣末紀之社長は、今年5月に、会社設立10周年記念のパーティを東京都内で開催し、次のように述べました。」
「これまでは保守的な戦略を取ってきましたが、今後は積極的に事業拡大を図っていく予定です」
7月に、ビットバンクと競合関係にあるビットフライヤーが、FTX Japanの買収を完了しました。FTX Japanは、かつて世界最大の暗号資産取引所として知られていたFTXの日本法人でしたが、ビットフライヤーは当面、この企業を「カストディ新会社」という名前で呼ぶことにしました。将来的には、暗号資産のカストディ事業を強化していく方針です。
ビットフライヤーは、「日本国内の法制度が整備された将来、暗号資産現物ETFに関連するサービスを提供する」と述べています。
SBIは資産運用の米国老舗と手を組む
SBIは暗号資産、デジタル証券(セキュリティ・トークン)、NFT、ステーブルコイン、スポーツファントークンなど、ブロックチェーン上で発行・取引が可能なトークン事業の体制を、提携とM&A(合併・買収)などを通じて国内外で整備してきた。
SBIの北尾吉孝会長は7月、資産運用分野の老舗企業である米国のフランクリン・テンプルトンと提携して合弁会社を立ち上げる計画を明らかにしました。この提携は、将来的に日本で暗号資産(仮想通貨)を取り入れたファンドやETFの販売が解禁されることを見据えたもので、そのための準備を行うものです。
フランクリン・テンプルトンもブラックロック同様に、ブロックチェーン技術を積極的に活用し、トークンによる新しい投資商品を開発しています。 たとえば、両社が開発した米国債などに投資するトークン化ファンドには、販売開始からわずか4カ月で10億ドルもの資金が集まりました。
国内市場においては、法整備や手続きの問題などから、日本版ビットコインETFの解禁が少なくとも2年かかる可能性があると指摘されています。それにも関わらず、政府は新NISAを通じて国内外の株式やETFへの投資を促進し、国民が「貯蓄から投資へ」の方向に進むよう推進してきました。投資家を保護するための法規制は必要不可欠ですが、米国の金融業界が資産として認めるビットコインやイーサリアムを含む投資信託は、日本の個人投資家にとって代替資産として有力な選択肢となる可能性があります。
新たな市場が形成されることにより、暗号資産取引所の役割はより重要になります。また、事業価値を向上させるために、取引所は取引サービス事業を超えたトークンに関連する付帯事業の整備が不可欠となります。
「文章:佐藤茂、増田隆幸。画像:Shutterstock。※編集部から一部の文言を修正し、更新しました。」
米国の主要金融機関が展開する暗号資産の運用ビジネス

「国内の仮想通貨市場では、2024年に取引口座数が急増し、1000万口座を超えるなど、表面的な数字で見れば国民の約10人に1人がアクセス可能な資産となっています。政府や自民党がWeb3を国家戦略の一環と位置付けたことが契機となったと考えられます。それでは、なぜ日本の取引口座数が2024年に急増したのか、その理由について考えてみましょう。」
2022年1月、アメリカの金融業界で重要な出来事がありました。世界最大の資産運用会社であるブラックロックを含む11社が、ビットコイン現物ETF(上場投資信託)をアメリカで初めて上場させました。これにより、暗号資産に慣れていない一般の投資家たちでさえ、ビットコイン(BTC)に間接的に投資できるようになりました。現時点で、これらの11本のビットコインETFに累積された投資額は175億ドル(約2兆5400億円、1ドル145円換算)に達しています。
「その後半年の7月に、米国ではイーサリアム・ブロックチェーンのネイティブトークンである「イーサリアム(ETH)」に連動した複数のETFが登場しました。このイーサリアムETFを推進した企業には、世界の資産運用業界をリードしてきたブラックロックと米国フィデリティという名前が浮上していました。」
「アメリカでの動向が火をつけ、ビットコインETFが未だに未発売となっている日本において、実物のビットコインへの投資意欲が高まった。これまでの仮想通貨取引所に加えて、メルカリもビットコインの購入サービスを本格展開した。」
「10兆ドルの資産を管理し、金融業界をリードするブラックロックが、ついにビットコインを1つの資産クラスとして認識し、新たな投資信託を立ち上げる段階に至ったことは、一般の投資家にとっても無視できない重要なニュースである。」
米国のCoinbaseが事業基盤を拡大するためにビットコインETFの導入を検討中

「米国で取引が始まったビットコインETFにより事業を拡大している米国企業が存在します。その企業は、暗号資産取引サービスを提供し、ブロックチェーン関連の事業を展開しているCoinbase(コインベース)です。Coinbaseは2021年にナスダックに株式上場し、初の暗号資産取引所となりました。」
「当社の収益モデルを見れば、それは明らかです。」
2024年4月から6月の第2四半期に、コインベースは14.5億ドルの売上高を達成しました。これは日本円に換算すると約2100億円に相当します。同社の収益の約半数は取引サービス事業から生まれ、その収益は約7.81億ドルです。このうち85%は個人投資家向けの取引サービスから生み出されています。
「興味深いのは、「Custodial Fee Revenue(カストディ手数料収益)」に分類される収益で、第2四半期には3450万ドルの収益が発生しています。全体の収益が14.5億ドルであることを考えると、収益源とは言い難いかもしれませんが、前年同期比で2倍に増加していることが明らかとなっています。」
「ETFの発行者は、ビットコインやイーサリアムを購入する際に、専門の保管・管理企業に預託することで売買を行います。この保管・管理業務を担当するのが、例えばコインベースという企業です。コインベースは、ビットコインの保管・管理を行うだけでなく、米国で発行された9つのイーサリアムETFのうち8つの保管業務も引き受けていると報告されています(同社の報告書による)。」
日本国内でも流通が認可されたステーブルコインは重要な収益源となっています。
ちなみに、コインベースの収益のうちもう1つの柱は、日本でも発行が可能となった「ステーブルコイン」に関連する収益です。
「ステーブルコインとは、法定通貨にペッグされたデジタルトークンで、ブロックチェーン上で発行や取引が行われます。米ドルに連動したステーブルコインの分野では、米国のテザー社が発行する「USDT」が最大の発行量を持ち、次に大きいのは米サークル社が発行する「USDC」となっています。」
コインベースは去年、サークルへの資本参加を行い、ステーブルコイン事業の収益を増加させるための取り組みを強化してきました。同社が第2四半期に記録したステーブルコイン事業からの収益は2.4億ドルで、前年同期の1.5億ドルから大幅に増加しました。
「サークルが発行しているUSDCは、1USDC=1ドルの価値をキープするために準備金を保持しています。この準備金には、米国の短期国債や現金が含まれており、獲得した利息はサークルの主要な収入源となっています。金利が上昇する時期には、当然ながらこの利息収入も増加します。」
「サークルは現在、米国での株式公開を検討しており、今年1月に米国証券取引委員会に書類提出を行っている。」
暗号通貨ETFに関連した動きが始まった企業を見据えています。

日本に帰って、ビットコインETFやイーサリアムETFの「日本版」が発売される可能性がある場合、確実にコインベースのようなカストディ業務を提供する企業が必要になります。このため、暗号資産交換業者のビットバンクやビットフライヤーがその体制整備に取り組んでおり、SBIホールディングスもブロックチェーン上で取引されるあらゆるトークンを取り扱う方針を推進しています。
「ビットバンクという企業は、約3840億円の預かり資産残高を持ち、約160人の従業員を擁しており、2022年に三井住友トラスト・ホールディングスと提携し、デジタル資産信託事業を展開するための「日本デジタルアセットトラスト(JADAT)」の設立準備に着手した。」
「ビットバンクの株式の30.69%を所有する廣末紀之社長は、今年5月に、会社設立10周年記念のパーティを東京都内で開催し、次のように述べました。」
「これまでは保守的な戦略を取ってきましたが、今後は積極的に事業拡大を図っていく予定です」
7月に、ビットバンクと競合関係にあるビットフライヤーが、FTX Japanの買収を完了しました。FTX Japanは、かつて世界最大の暗号資産取引所として知られていたFTXの日本法人でしたが、ビットフライヤーは当面、この企業を「カストディ新会社」という名前で呼ぶことにしました。将来的には、暗号資産のカストディ事業を強化していく方針です。
ビットフライヤーは、「日本国内の法制度が整備された将来、暗号資産現物ETFに関連するサービスを提供する」と述べています。
SBIは資産運用の米国老舗と手を組む
SBIは暗号資産、デジタル証券(セキュリティ・トークン)、NFT、ステーブルコイン、スポーツファントークンなど、ブロックチェーン上で発行・取引が可能なトークン事業の体制を、提携とM&A(合併・買収)などを通じて国内外で整備してきた。
SBIの北尾吉孝会長は7月、資産運用分野の老舗企業である米国のフランクリン・テンプルトンと提携して合弁会社を立ち上げる計画を明らかにしました。この提携は、将来的に日本で暗号資産(仮想通貨)を取り入れたファンドやETFの販売が解禁されることを見据えたもので、そのための準備を行うものです。
フランクリン・テンプルトンもブラックロック同様に、ブロックチェーン技術を積極的に活用し、トークンによる新しい投資商品を開発しています。 たとえば、両社が開発した米国債などに投資するトークン化ファンドには、販売開始からわずか4カ月で10億ドルもの資金が集まりました。
国内市場においては、法整備や手続きの問題などから、日本版ビットコインETFの解禁が少なくとも2年かかる可能性があると指摘されています。それにも関わらず、政府は新NISAを通じて国内外の株式やETFへの投資を促進し、国民が「貯蓄から投資へ」の方向に進むよう推進してきました。投資家を保護するための法規制は必要不可欠ですが、米国の金融業界が資産として認めるビットコインやイーサリアムを含む投資信託は、日本の個人投資家にとって代替資産として有力な選択肢となる可能性があります。
新たな市場が形成されることにより、暗号資産取引所の役割はより重要になります。また、事業価値を向上させるために、取引所は取引サービス事業を超えたトークンに関連する付帯事業の整備が不可欠となります。
「文章:佐藤茂、増田隆幸。画像:Shutterstock。※編集部から一部の文言を修正し、更新しました。」