「Gincoが1月28日に、仮想通貨取引所DMMビットコインで発生した482億円相当のビットコイン流出事件に関する調査報告書を公表しました。」
「当社は、「Lazarus Group」に属する北朝鮮のサイバー攻撃グループ「TraderTraitor」による標的型攻撃により、当社の暗号資産ウォレットソフトウェア「Ginco Enterprise Wallet」のインフラに不正アクセスがあったことを明らかにし、関係者に謝罪の意を示しました。」
「以下は、現時点で把握されている事実に基づいて開示可能な情報として、同社が報告した全文です。」
当社が提供する本ソフトウェアは、ユーザー様の暗号資産および秘密鍵をユーザー様自身の管理下で安全に取り扱うことを支援するものです。本ソフトウェアにおいてトランザクションの指図や履歴の管理を行うサーバおよびユーザー様の操作画面は当社が契約するクラウド環境より提供しております。
一方で、暗号資産および秘密鍵の管理については、専用のコールドウォレットソフトウェアを納品することでユーザー様に保管・管理および使用いただくというシステム構成です。そのため当社は暗号資産や秘密鍵を保管・管理しておらず、ユーザー様のもとでオフライン環境下で保管される当該コールドウォレットソフトウェアを当社が操作することは出来ません。
また、当社は金融庁の登録を受けた暗号資産交換業者ではなく、そのためユーザー様から暗号資産および秘密鍵の管理ならびに送金に係る業務を受託する立場ではありません。
本件において、攻撃者は、LinkedIn上でリクルーターになりすましたうえで、2024年3月下旬に当社従業員に接触し、GitHub上に保管された採用前試験を装った悪意あるPythonスクリプトのURLを送付しました。
攻撃者は、当該従業員が、このPythonスクリプトを実行するように誘導し、その結果、当社従業員の業務用端末が侵害され、攻撃者は、本ソフトウェアのインフラストラクチャとして契約しているクラウドサービス上のKubernetesの本番環境へアクセス可能な認証情報(Credential)を不正に取得したと認められます。この攻撃に利用されたPythonスクリプトは、Pythonの仕様を利用した高度な手法によって攻撃を行う類のものであったことが捜査当局により確認されています。
そして、2024年5月24日から31日の間において、攻撃者が当該従業員の認証情報を用いて、Kubernetesの本番環境へ不正アクセスを行った形跡が確認されています。なお、本ソフトウェアのアプリケーション、ソースコード、当社が管理する顧客関連情報が保存されているデータベース等、その他の当社業務ツールや仕様書等への不正アクセスは確認されておりません。
本件と2024年5月31日に発生した不正送金との関係については、以下を確認しております。当社は、株式会社DMM Bitcoin様(以下、「当該利用者様」といいます。)のシステム開発・運用を担う企業様(以下、「当該契約者様」といいます。)に対し、本ソフトウェアを提供するとともに、当該契約者様が当該利用者様に本ソフトウェアを使用させることを許諾しております。
攻撃者は、不正アクセスを行った際に、低レイヤーの通信処理に干渉する手法により、当該利用者様による正規のトランザクション指図に対し、不正なデータを追加したことが判明しております。なお、不正送金のトランザクションが本ソフトウェアから送信された事実はありません。
現在も捜査が継続中であること、当社が捜査上の情報のすべての開示を受けているわけではないこと、また、当該利用者様の業務環境および実際のオペレーションについて直接情報を取得ならびに公表できる立場ではないことから、当社からご報告できる情報は以上となります点、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
[Gincoウェブサイトから]
“DMMビットコインによる暗号資産流出事件の経緯”
2024年5月に発生したDMMビットコインからの482億円相当(4502.9BTC)の暗号資産流出事件に関して、警察庁は2024年12月24日、北朝鮮に関連するサイバー攻撃グループ「トレイダートレイター(TraderTraitor)」が犯行者と特定した。これは、米連邦捜査局(FBI)や米国防省サイバー犯罪センター(DC3)との共同調査によって明らかになり、攻撃の手法も特定された。
トレイダートレイターは北朝鮮当局の下部組織であるとされるラザルスグループの一部であり、2024年3月下旬からビジネスSNSであるリンクトインを利用した標的型攻撃を開始しました。この攻撃は暗号資産取引の管理を行っていたDMMビットコインの取引所であるGincoに対して行われ、社員に対して担当者を装って接触を試みました。
5月中旬以降、社内ネットワークに不正に侵入し、従業員のアカウントを乗っ取った攻撃者は、採用試験を装った悪意のあるウェブサイトのリンクを通じてアクセスした。その後、DMMビットコインでの取引手続きを操作して、顧客資産を攻撃グループが管理するアドレスに送金させるという手口を行った。
DMMビットコインは12月26日、Gincoにおける暗号資産の不正流出について、具体的な経緯とセキュリティ対策の不備による原因について説明を求める声明を発表しました。同社は取引所を閉鎖する決定を下し、顧客の資産と口座をSBIVCトレードに移管することを決定し、移行作業は今年3月までに完了する予定です。
文章:「栃山直樹氏による執筆/撮影」、画像:「Gincoウェブサイトからキャプチャしたもの」