サントリーは、昨秋に販売したビール「マスターズドリーム」の原酒樽熟成シリーズに「飲用証明NFT」を付与しました。開栓済みのボトルにスマートフォンをかざすと、製品を飲んだ記念となるNFTが手に入ります。このNFTはAvalanche（アバランチ）上で発行されます。
「ブロックチェーンの特異な利用例として、CoinDesk JAPANでも紹介されましたが、この際、アバランチは提供されましたが、サントリーからの発表は特にありませんでした。現時点では、商品の紹介でもNFTについて触れられていません。」
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なぜサントリーが高級ビールとNFTを融合させたのか、そしてなぜ公には発表していないのか。このプロジェクトはシンガポールに拠点を置くWeb3チームが手掛けており、彼らとの会話を通じてこの計画についての詳細を聞いた。来日した際にその機会を得て、その話を聞いたのだ。
「NFT」を打ち出さなかった理由
ビールをウイスキー樽で熟成させた「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉2024」という商品には、飲用証明のNFTが付属しています。この商品はネット限定で販売され、1本715ml入りの瓶に6600円（税込・メーカー希望小売価格）という価格で提供されています。
興味深いのは、サントリーのウェブサイトには、NFTに関する説明が見当たらないことだ。
「サントリー未来開発部の櫻井卓雄氏によれば、こう述べています。」
「Web3技術がまだ完全に定着していない状況下で、NFTの体験をどのように説明するか、これまでに考えた言葉を慎重に選んだ。もしWeb3ユーザー向けの製品であれば、異なる表現を選んでいた可能性がある。しかしながら、今回の製品は『お酒好きで、これまでにない新しいビールを探しているお客様』を対象としているため、NFTという用語は意図的に避けた。」
ただし、Web3の活用方法を模索する方針は依然として変わらず、これまで積極的に前面に出すことはしていなかった。同社はシンガポールにブロックチェーン技術を専門とする社内チームを設立し、今回の製品開発もそのチームと連携して行っている。
「サントリーは常に顧客に多様な価値を提供しようと努めています。シンガポールでチームを立ち上げ、Web3に挑戦することは、その取り組みの一部です。」
今回のNFTは、何が狙いなのか？
「たとえWeb3プロジェクトであっても、私たちの中心は『お酒を楽しむこと』です。今回はその体験をより豊かにするために、『飲用証明』をNFTで作成しました。私たちの目的は、すでに存在するブランドに『追加価値をもたらす』ことでした。」
「リリース後、ユーザーからの反応は、全体的に好意的であったという。櫻井氏は「既存のブランド製品にWeb3の技術を組み合わせたことを、前向きな挑戦として評価していただけた」と述べています。」
NFT発行の仕組み
“NFTの生成には、交通系ICカードなどで使用されるNFC（近距離無線通信）タグが使用されました。仕組みは以下のようになっています。”
最初に、この製品のビール瓶には、王冠の隠れる形で電子タグ（NFC）が組み込まれたシールが貼られています。つまり、ビールを飲むためには、シールを剥がさなければなりません。
「シールが破られると、NFCタグの状態が変わり、ビールが「開封された」と認識されます。その状態でスマートフォンをNFCタグにかざすと、ブラウザを介して通信が行われ、NFTが発行できるようになります。」
その後、ユーザーは電子メールやウォレットを通じてNFTを受け取ることができる仕組みがある。
“今回の挑戦で目標を果たすことができたかどうか、あなたは思いますか？”
櫻井氏は「ビール瓶にNFCタグをつけ、それをスマートフォンで読み取ってもらい、NFTを発行するという仕組みが、いかにお客様に受け入れられ、楽しんでもらえるかは未知数だった。今回、技術的な問い合わせは一部あったものの、予想内の範囲内で、全体としては『お客様に混乱を招くことなく、展開することができた』という考え方で経過を振り返る。
「この新しい取り組みにおいて、例えばNFCタグが付いたシールが簡単に損傷したり水に濡れたりして故障する可能性がないかどうかの検証を行いました。また、NFTの発行フローについては、シンガポールのチームと密接に連絡を取り合いながら、システムを構築してきました。」
Avalanche採用の理由
「なぜAvalanche（アバランチ）を使うことにしたのか、その選択理由は何ですか？」
シンガポールのブロックチェーンチームでプロダクトマネージャーを務めるLinda Yu氏は、Avalancheを選んだ理由として、高いセキュリティ、互換性、スケーラビリティ、動作スピード、NFTの管理のしやすさを挙げました。「他のチェーンも検討しましたが、今回はAvalancheが最適だと判断しました」と述べています。
同じチームのマネージング・ディレクターであるSebastian Zilliacus氏は、「信頼を得るためには、チェーンの将来性や透明性、相互運用性、そしてパブリックチェーンであることなど、重要な要素がある」と述べました。
「パブリックチェーンに書き込まれたデータは、そのチェーンが続く限り永遠に残存します。」
Zilliacus氏は、「それがWeb3技術を選ぶ理由である。多くのWeb2のサービスは、ある時点で運用停止となってしまうこともある」と述べました。
Yu氏は、「Web2のサービスでは運営終了と同時にデータが消失するが、データがブロックチェーン上に保存されている場合、サービスが終了してもデータが利用可能になる」と述べました。
“NFTにおいては、例えば10年後や20年後に、その瞬間にビールを開けて飲んだことを確かに証明することができるのです。”
「今回、Web3側では、どんなアプローチを取ったのだろうか。」
“Yu氏は、スマートフォンとメールアドレスがあれば良い、という簡単な条件を強調しています。”
「このNFCタグは、多くのユーザーにとって馴染み深いものであり、NFTを受け取る際には新しいアプリをダウンロードする必要はなく、暗号資産ウォレットも必須ではないということです」（Yu氏）
このプロジェクトでは、Web3ユーザーに限らず、誰でも手軽に利用できる形態を重視しました。しかし、サントリーの多彩な商品ラインナップを考慮すると、今回とは異なる展開も考えられるかもしれません。
Zilliacus氏は、「当然ですが、ブロックチェーンを活用したプロジェクトについて何種類か検討しています。今回のプロジェクトから得た知見を基に、革新的なユーザー体験を創出するために、新たな手法やブランドの魅力作りに挑戦していきたい」と述べました。
新たな展開を見せるNFT
NFTは、2021年から22年初めにかけて急速なバブル現象を経験しましたが、その後急速に崩壊しました。例えば、旧ツイッターの創業者であるジャック・ドーシー氏の世界初のツイート画像NFTは、2021年3月に約3億円で落札されましたが、翌年4月のオークションでは最高入札額が100万円を下回ったと報じられています。また、人気を集めていたPFP NFT（プロフィール画像NFT）も同様の状況に陥りました。
2024年12月に、ナイキグループ傘下のRTFKTが事業を終了すると発表された。直近では、ANAが自社のマーケットプレイスサービスの終了を発表した。「NFTはもう時代遅れ」とする声もあったが、一方で、今回のサントリーの取り組みなど、リアルなビジネスとの連携が増えている傾向にある。
先週、楽天グループがJ1リーグ「ヴィッセル神戸」の開幕戦チケットをNFTで販売し始めました。JR九州はNFTを活用したキャンペーンを積極的に展開しております。また、そごう・西武は年末にNFTデータを顧客の行動分析に活用する実証実験をスタートさせました。
「急速に低迷した」と表現されたが、NFT取引量が急増し、市場が回復の兆しを見せているとの報告が米国のギャラクシー社から発表されています。
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「12月には、「パジーペンギン」というペンギンのイラストNFTコレクションのフロア価格（最低入札価格）が10万ドルを超えました。そして、日本では1月28日に、メルカリがNFTマーケットプレイス「メルカリNFT」の提供を開始しました。」
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2024年8月に公表された調査会社ガートナージャパンの報告書「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル：2024年」によると、NFT（非代替性トークン）は「幻滅期の谷」の底から抜け出そうとしている段階にあると指摘されていた。しかし、暗号資産市場がトランプ新政権の誕生を受けて盛り上がりを見せている中、NFTも新たなブームに向けて、底を脱した可能性があるという観測もある。
「記事執筆：渡辺一樹、編集：CoinDesk JAPAN編集部、写真撮影：今村拓馬」
